これまで、武田信玄を描いた肖像画というと、高野山成慶院の、おそらく三十代ぐらいの信玄を描いたと思われる、礼服姿をした貴公子的な雰囲気の物とこちらは晩年の彼を描いたと思われる、枯れ木に止まった鷹と共に描かれている、こちらは頭を坊主にしており、髭を生やした、太った姿で描かれている物である。

それぞれ、長谷川信春、長谷川等伯作である。

そしてこの長谷川信春と長谷川等伯は、同一人物であるとの説が強い。

でも、後者の肖像画の方は、その描かれている家紋などから、畠山氏を描いたものではないかという説が、強くなってきているというのは、すでに書きました。しかし、信玄の肖像画を巡り、新たに一石を投じる作品が、近年発見されました。

 

 この新たに、武田信玄と考えられる人物は、色々威の胴丸を付け、虎皮を敷いた床机に腰掛けている。更に、その左の傍らには、三鍬形の前立を付けた筋兜、そして右の傍らには法螺貝が置かれている。

そしてそれまでは、この肖像画は、土豪吉良頼康を描いた作品とされてきたが、近年ではその花菱紋の金具などから、藤本正行氏の研究により、武田信玄を描いた物と考えられるようになってきているそうです。

更にまたこの画像には、いくつかの写本の存在も確認されており、この肖像画の上部に竹埜正辰の賛が記され、それによれば、武人画家として名高い、信玄の同母弟の武田逍遥軒信綱が描いた物であり、高野山成慶院に奉納されたものであることがわかるというのです。

彼については、これもすでに書いている通り、これまで武田信虎と大井夫人の肖像画を描いたことで知られており、更にこれに加えて、南松院の肖像画も、彼によって描かれた可能性も、考えられるようです。

この肖像画の信玄は、面長で頬がふっくらとしており、上品な感じの顔立ちです。大変に興味深い、新たな武田信玄像の発見だと思います。

ちなみにこの肖像画は、「武田信玄と快川和尚 横山住雄 戎光祥出版」の表紙にも、使われています。 (「戦国武将の肖像画」二木謙一・須藤茂樹 新人物往来社)